【エッセイ】広島のおばあちゃん
こんにちは、藤淑花です。
今回はとても個人的なことを書きますね。
先月、広島県で撮影していただいた写真をTwitterにupした際、キャプションに「ただいま」と書きました。
密かに、そこに違和感を持たれる方がいらっしゃったら嬉しいなと、思っていました。
なぜなら私は岡山と台湾出身で、広島に関することは一度も言っていないからです。
そのツイートは「瀬戸内海に対するただいま」を示していて、それはそれで正しかったのですが。
私には広島に、もう1人おばあちゃんがいます。
母の元恋人(故人)の、お母さんです。
母が父と出会うずっと以前の事です。
子どもの頃に、箱から出した写真を見せてもらいました。若くはつらつとした、笑顔の2人でした。
彼は不慮の事故で亡くなられたそうです。
職場のロッカーに母がプレゼントした赤いジャケットが掛かっていて、その日の朝着ていったのだとわかったそうです。それはいまでも広島のおばあちゃんのお家に掛かっています。
生前の彼の写真を持っている人を探されていて、母と繋がったそうです。
もし亡くならなかったら自分の孫だったかもしれないからと、私と妹のことを「岡山の孫」と呼び、大切にしてくれています。
母は毎年お墓参りを続けていて、なるべく一緒に行っていたのですが、コロナで大阪から行くのがはばかられるようになってしまいました。
そんな広島のおばあちゃんは91歳です。折に触れて広島の新米や農産物を自分で詰めた箱を送ってくれます。
お礼の葉書を書いたら、すぐに戻ってきました。
妹が送ったクリスマスカードにも電話をかけてくれました。
写真はこんな大切な縁を繋ぐこともあるんだと、箱から出されたフイルム写真を見た時以上に、感じるいまです。
オミクロン株の状況にもよりますが、年明け、広島にご挨拶に行こうと思っています。
さて、今年、拙い文章を読んでくださった皆様、ありがとうございました。被写体活動にしても、不器用で未熟な私ですが、精一杯頑張りますので、来年もどうぞよろしくお願いいたします。それでは良いお年をお迎えくださいませ。
Written by 藤淑花
Photo by Tamotsu.Sogawa
校正・校閲:鈴倉佳代
【小説】空を見上げる
人はなぜ、空を見上げるのだろう。雲を見ているのか、空の色を見ているのか、鳥を見ているのか。それとも、見ているのは天国……?
開かれた場所――特に港、空港――で、空を見上げるのが好きだ。世界は広い、と感じることができるから。大勢の人が、来ては去る。いろいろな乗り物で、それぞれの場所へ。
空港近くの砂浜で、カメラを構えファインダーをのぞく。一枚、二枚、三枚……と間を置かずに撮っていく。動いているもの、飛行機を撮るのは難しい。
ファインダーから外れてしまう、と背中を思い切り反らせた。
飛行機と月が、束の間の逢瀬を遂げた。
Story by 鈴倉佳代
【エッセイ】マジックアワー
まじっくあわー
仰々しい言葉
大きくなってから知ったよねって
妹と話している
田舎の夜明け
田舎の夕焼け
1秒も同じ色が無い空を見ること
あたりまえだった
夜明け
お弁当を作るために起き出す
母の白いエプロンを彩っていた
今朝どんなグラデーションだった
眠気と朝の冷たい床と
母の気分と
夕刻
祖母が手を振っている
田んぼの3つ向こうから
名前を呼んでいる
広いひろい夕景のなか
抜ける風と魚が跳ねる音と
祖母の笑顔と
あたりまえは変わっていく
全部を含めて
マジックアワー
空を指すだけの言葉じゃなかったんだね
……
妹が話している
「思い出した、高校で写真部の子に聞いて知ったんだわ」
Written by 藤淑花
Photo by TETSUYA YOKOO
校正・校閲:鈴倉佳代
【小説】涙でコスモスが滲む
「戻ってきたら、伝えたいことがある」
そう言って戦場に赴いた彼は、戻ってこなかった。
この国の王女として生まれ、乳母になったのが彼の母親だった。少し先に生まれていた彼とこの城で遊び、勉学に励み、ときに喧嘩と仲直りを繰り返して一緒に育った。
「大きくなったら、私と結婚してくれる?」
幼い頃、花畑でかくれんぼをしたとき、そう言ったことがある。あのとき彼は、なんと答えたのだったか――。
彼との思い出が押し寄せる。止めどなく涙もあふれてくる。私は彼の亡骸を見ていない。だから、もしかしたら彼が戻ってくるんじゃないか、と毎日部屋の窓から城門を見る。
知らせを聞いてから一年が経ったのだ。そんなはずはない。頭では分かっていながら。
涙でコスモスが滲む。窓際にあるそれは、彼が一番好きな花だった。よく赤色のコスモスをプレゼントしてくれた。
お腹が鳴る音。三食きちんと食べるように、と彼が言っていたことを思い出す。涙を拭う。
昼食を食べよう。そう思って窓から離れようとしたとき、視界の端で何かを捉えた。城門に衛兵以外の誰かがいる。今日の来客はない、と朝食の席で父が言っていたはず……。
城に向かってゆっくり歩いてくる人。すると、乳母がその人に駆け寄るのが見えた。もしかして。もしかして、あの人は――。
Story by 鈴倉佳代
Photo by ボヤツキ様さん。
【小説】大阪の夜は明るい
大阪の夜は明るすぎて疲れる、と彼女は言った。
彼女に付き合ってもらって大阪を観光した後、わたしが泊まっているホテルへと戻る前に小休止していたとき。
光を目に入れること自体がしんどいらしい。確かに、今日はずっと一緒にいたのに一度もスマホを見た様子がない。連絡も、いつも電話が多い。
「スマホ、捨てたいんだよね」
考えが声に出ていたのだろうか。鞄のなかから取り出したそれを、今にも振り被ろうとする。
「ちょ、ちょっと待って!」
慌てて止めに入る。彼女と連絡を取る方法は、これしかないのだ。
「さすがに捨てないよー、今はまだ」
わたしの慌てぶりが可笑しかったのか、笑ってスマホを鞄に仕舞いながらそんなことを言う。
「これがなきゃ、連絡取れないもんね」
遠方に住んでいるわたし。
「星が見えない夜はなんのための夜か分からない。星が見える場所に住みたい。よくみえるところに」と彼女は一気に言った。
それを聞いて、帰るときに言おうと思っていたことを今、言うことにした。
「じゃあ、こっちに来る? 星がよく見えるし、ほら、いつでも話せるし、さ」
Story by 鈴倉佳代&藤淑花
Photo by なおなお🎃
【小説】猫みたいな君と雨
閑静な住宅街の片隅に、君はいた。立ったりしゃがんだり、曇り空を見上げたり。差している日傘をクルクル回したりもしている。
その様子が、なんだか猫みたいだな、と微笑ましい気持ちで思う。
ポツリポツリ、と雨が降り出した。
――おっと、いけない。見入っている場合じゃなかった。道に迷って大幅に遅刻していたのだ。その上、濡れ猫にさせるわけにはいかない。
大急ぎで走り寄り声をかける。
「遅くなって、ごめん!」
「びっくりした、大丈夫だよ。猫を眺めて待っていたの。ほら、あそこ。雨で濡れないといいんだけど!」
Story by 鈴倉佳代&藤淑花
Photo by 大友せつな